大同生命
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必見! 広岡浅子像ができるまで 後編

平成三〇年三月から大同生命大阪本社一階に設置されている広岡浅子像。その制作過程を通して、浅子像制作の意義や制作者の浅子への想いを紹介するコラムの後編では、制作を担当された額賀苑子さん(原型担当)、國川裕美さん(台座担当)のお二人にお話を伺います。

額賀ぬかが苑子そのこさん(右)

東京藝術大学美術学部彫刻学科卒、同大学院美術研究科彫刻専攻修士課程修了。

浅子像の原型制作を担当いただきました。

國川くにかわ裕美ひろみさん(左)

東京藝術大学美術学部彫刻学科卒、同大学院美術研究科彫刻専攻修士課程修了。

浅子像の台座制作を担当いただきました。

──今回の広岡浅子像制作のように、外部から制作オファーされるというのは多いものでしょうか?

額賀:私は初めてですね。肖像彫刻を作るというのも初めてでした。

國川:私も台座は自分の作品の台座しか作ったことがありませんでした。

──ご自身の作品の制作と今回のような外部からの制作依頼とでは、その過程がずいぶん違うように思うのですが……。

額賀:全然違いますね。自分の作品だと発想やコンセプトから展示の仕方まで自分でプロデュースしていかなければならないのですが、こうやってコンセプトが決まっていて「こういうものを作ってほしい」と依頼されることは、こういうやり方もあるのかと勉強になりました。

國川:私は「大同生命大阪本社のエントランスホールに使われている石に合う石を探す」ということが今回のミッションでした。大阪本社に使われている石はトラバーチンという種類のものですが、それがふんだんに使われていて、何回か大阪本社に足を運んでそれに合うものを探したことはいい経験になりました。

また、像の色がブロンズではなく金色になるとは聞いていたのですが、それが台座と合うのか、実際に置いてみるまでわからなかったので、それがすごく心配でした。加えて、石の面を取る場所で色がツートーンに分かれていて、この石の色は磨きをかけるまでどんな風合いになるかわかりません。また、最後に濃い色を上にするか薄い色を上にするかも悩みました。それで印象がとても変わるので、置いてみるまで結構ドキドキでした。

大阪本社の空間

──大阪本社の空間に合う浅子像を、ということでお二人とも今回の制作にあたっては何度も大阪本社に足を運ばれたそうですが、大阪本社ビルの建築にはどのような印象を持ちましたか?

額賀:私も人体塑像の作品でテラコッタを使っていますが、私が使っているのは素焼きのものです。一方で、大阪本社ビルの外壁のテラコッタは釉薬ゆうやくを施していてマットな質感ですね。あの量の陶器をビルに使われるという発想がすごいと思いますし、他の建物ではあまり見たことがないです。土の質とか施釉の技術も卓越していて、外灯や、ピナクル(教会の尖塔せんとうを模した装飾)の造形なども美しいと思いました。古いものがたいへん綺麗に形が残っていて、素晴らしい管理をされていると思いました。

國川:大阪本社ビルは形が特徴的ですね。それに内装の石も素晴らしいです。二階のメモリアルホール(現在は「加島屋と広岡浅子」展示会場)のモザイクとか床の感じもすごくいいと思いました。

メモリアルホールで使われている石はもう日本では採石できない石らしく、今回の台座の石は岐阜県関ヶ原の石材屋さんからトルコ産の石を調達したのですが、そこの方がメモリアルホールの石を見て「凄く珍しい石があるね、もう今は取れない石だからこれは大変貴重だ」とお話されていました。

──さて、再び浅子像のことについてお伺いしたいのですが、いわゆる正面を向いたブロンズの肖像と違い、顔と体の向きが異なることが印象的です。その意図について詳しく教えてください。

額賀:初めて大同生命さんを訪問した時には、まだ、浅子さんのポージングや置く場所なども決まっていませんでした。制作チームのみんなで考えて、ちょうど土佐堀川が見える位置におくことにしましたので、体の向きは正面ではなく、視線が外の土佐堀川の方に向くようにしました。

後は、構図の問題で、四角い正方形の台座に正方形の椅子があると正面が揃ってしまい、像の存在感とホールの空間との調和がとれなくなる、いわゆる空間の“抜け”が悪くなってしまうと感じたので、少しだけ姿勢を崩してみて、足が伸びやかに見える角度はどうだろう、という感じでボーズを決めていきました。

國川:台座に像を設置するための穴を開けるのですが、その穴の位置をどこにするか、台座のサイズの寸法と同じものを作って像の下に置いて「どの角度にしようか」と二人で意見を交わしました。像の角度を少し変えるだけでも印象が変わります。石は視覚的にも強い印象を与えるので重要なのです。

ポーズを検討する額賀さん

「強さ」だけじゃない浅子

──意図した通り、正面を向いた重々しい肖像の彫刻とは全く違うものに感じられます。次に、お二人の「浅子さんのイメージ」を教えていただけますか?

額賀:浅子さんの生涯に関する伝記や創作物を見て、すごく強い人だなと思いました。でもやっぱり元々はおてんばな女の子で、今の私たちが普段感じるような窮屈さをもっと感じていて、今を生きている普通の女性と変わらない部分もきっとたくさんあったのだろうと思います。強さだけじゃなく、女性らしさやしなやかさみたいな、芯が強いけれど、凛としていて優しいところも想像できましたので、そういうイメージを出したいと思い、あのポーズにしました。

國川:私も浅子さんはすごく強い女性だと思いました。浅子さんをイメージした時に、私と同じように皆さんもまず「強い」という印象が出てくると思うので、優しくて温かみのある浅子さんのイメージを持てるような像がいいと思いました。

①:原型となったマケット(模型/高さ三〇センチメートル)
②:粘土原型(高さ一三〇センチメートル)
③:石膏原型(同右)
④:完成した浅子像(同右)

──浅子さんをいろいろ調べる中でこういった浅子は優しいとか柔らかそうだなと感じたところはありましたか?

額賀:夫の信五郎さんとの関わりに対しての懐の深さですね。また、鉱山に一人で乗り込むって大変なことですけれど、地元の人とも分かり合って仲良くなっていく情の深さに加えて、女性ならではの芯の強さや臨機応変なところもあって、とても“しなやか”な女性だと感じました。

國川:浅子さんは母性がすごく強い方だと思いました。この人ならついていけると思わせられる能力にすごく長けていらっしゃったことが想像できます。失敗したり周囲と意見が合わないことがあっても、最終的には周りがみんな仲間になってくれるという、そういう部分で女性的な温かさもすごくあったのではないかと思います。

東京藝術大学の力を結集した浅子像

──今回は大同生命と東京藝大の共同プロジェクト、受託研究という特殊な形式でしたが、作るときに何か意識されましたか?

額賀:普段、彫刻科と鋳金科、あるいは彫刻科の中でも塑像と石彫が共同で仕事をする機会はあまりありません。今回のように科・専攻や素材をまたいで、それに大同生命の方にも参加いただいて、多くの人との関わりの中で、まだ、形にはなってはいないけれど、「私はこう思っている」というイメージをどのようにメンバーに共有していくかという作業はとても勉強になりました。

國川:私は台座担当ということで、石を加工するのはだいぶ後になりますが、銅像がどういうものになっていくのか、できるまでメンバーと一緒にいて、常に台座のことをイメージしていました。

──制作したお二人から、浅子像の見どころを教えていただけますか?

額賀:浅子像は東京藝術大学の技術や素材など、総力を結集した作品です。現在であれば、3Dを活用した革新的な技術がある中で、あえてほとんどを手作りで作業したものであり、その素材のおもしろさとか存在感というのは見どころだと思います。表面の金色も本物の金箔ですし、台座のトラバーチンという石もすごく存在感のある素材ですが、優しい表情があったりします。素材一つひとつに表情があって見応えがあると思います。服や髪など細かい部分も一生懸命作りました。表情に関しても、浅子さんの写真と、私の中の浅子さんのイメージの間を抽出しようと頑張ったので、表情もよくご覧いただけると嬉しいです。それと浅子像と、像のある空間との響き合いがすごく綺麗にできていると思います。北郷先生が完成した時に「この作品は音楽的なものになった」とおっしゃったのがとても印象的でした。

國川:彫刻というのは写真では素材感も伝わりづらいものです。大阪本社ビルの上品な空間と一緒に響き合う浅子像を、是非直接ご自身の目で見ていただきたいと思います。

額賀:それと、浅子像を搬入する時が一番印象に残っています。東京藝術大学の彫刻科や鋳金科メンバーに、石を運ぶ業者さんや台座の元となる石を作った業者さんなど、総勢三十人ぐらいの方が参加していて、それぞれのポリシーやプロ意識が重なりあったり、弾きあったりして……。

國川:プロフェッショナルの集まりで、それぞれの搬入や設置の仕方が全然違うため、まるでオーケストラの本番みたいに、あの日が一番のクライマックスで大変でした。そういうのも含めて「音楽的」なものだったのかなと。

額賀:なるほど(笑)

設置の様子

──最後に、お二人の夢、浅子像制作に携わったことでご自身の今後の夢にどういう影響があったのかを教えてください。

國川:彫刻制作は個人的な作業ですが、見てくださる方がいて作品として成り立つものです。今回のように大同生命さんと一緒に仕事ができて、ここまで作品を多くの方にご覧いただける機会はこれまでなかったので、大変勉強になりました。

また、こういう機会がなかったら今回ご一緒させていただいた皆さまともお会いできていなかったわけですし、彫刻をやっていて良かったなと思います。今回の作品制作を通して、いろんな人と関わりあっていきたいという思いが、より強くなりました。

額賀:これまで人体を主体に彫刻を作ってきて、自分の考えていることを彫刻で表現してきたのですが、今回は大同生命さんの想いや北郷先生のアイデアを踏まえて、それを私がどういう風に解釈して形にしていくのかという経験は、とても勉強になりました。また、浅子像は、普段、彫刻に触れられない方に彫刻のことを知っていただく貴重な機会であり、それを自分が作ったものでそういう機会を作っていただけるのはとても光栄なことです。これからも、社会に貢献できるようなものを作れたらいいなと思っています。

──本日は貴重なお話を本当にありがとうございました! お二人の今後益々のご活躍を期待しております。

二回にわたってお送りした、広岡浅子像制作の舞台裏。細かなポーズから設置する場所に至るまで、芸術家の方の意志が細部にわたって込められたものであることがお分かりいただけたと思います。

制作者の方々にも絶賛いただいた大同生命大阪本社ビルの外観、内観と調和した広岡浅子像を、是非展示会とともにご覧ください。

浅子像をご覧になりたい方へ

「九転十起生─広岡浅子像」は、当社大阪本社(大阪市西区)エントランスホールにてご覧いただけます。

また、メモリアルホールにて特別展示『大同生命の源流“加島屋と広岡浅子”』を開催しておりますので、あわせてご覧ください。