大同生命
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新発見! 加島屋に伝わった〝青磁せいじ大鉢おおばち
──一五〇年を超えてよみがえる物語

はじめに

江戸時代中期から明治にかけて、加島屋は商都・大坂にとどまらず日本を代表する大商家として活躍しました。その間に加島屋が所蔵した道具類(美術品コレクション)は、主に「茶の湯」で使われるものが大半でしたが、まさに豪商の財力を象徴するものだったことが明らかになっています。

しかしそれらは、明治維新以降の加島屋の経営危機、さらに一九二八(昭和三)年の加島銀行破綻に伴う売立(競売)で全て売却され、現在、当社の手元に残っているものはありません。

明治維新から一五〇年以上が経過した二〇二五年。この年は加島屋が創業したと伝わる一六二五年からちょうど四〇〇年の節目にあたり、大同生命では「加島屋四〇〇年」と銘うった様々な企画を行いました。そんな中、取組みをご覧になった方から、「加島屋にゆかりの青磁の大鉢おおばちが手元にある」という連絡が当社に寄せられました。

そこから、一つの歴史が静かに動き出したのです。

青磁大鉢

青磁とは、中国発祥で東アジアを中心に発展した、微量な鉄分を含んだ釉薬をかけ、酸素が少ない状態で焼くことで青緑色に発色させた陶磁器のことです。今回見つかった「青磁大鉢」は、口径四三・三センチ、重さ五・五キロの大変大きな青磁のお皿です。

〈撮影:六田知弘〉

青磁をはじめとした世界的なコレクションで知られる大阪市立東洋陶磁美術館の小林仁学芸課長代理からは、青磁大鉢の持つ以下のような特長から「一四世紀ごろ、中国・龍泉窯りゅうせんようでつくられた、宮廷向けの高級品と考えられます」とコメントをいただきました。

・緑がかったゆうの色合い

・内面に彫られている“五爪の龍”(皇帝の権威を象徴する意匠)

底に描かれた五爪の龍〈撮影:六田知弘〉

・底部に残る環状の赤茶色の焼成痕

〈撮影:六田知弘〉

青磁大鉢に秘められた歴史ドラマ

この青磁大鉢と加島屋との関係を決定づけたものが、青磁大鉢が入っていた共箱の蓋の裏に記されていた由来書です。

青磁大鉢の共箱と由来書〈撮影:六田知弘〉

《釈文》

明治元年戊辰十一月

長州御政府方

山縣弥八殿白根多助殿

御上阪御銀談二付被為

下置候旨御達

   正饒 拝領之

《大意》

明治元(一八六八)年十一月。

長州藩の(財務担当)役人である

山県弥八殿・白根多助殿が

大阪に出向いてこられ、財務の交渉において

(毛利公が)これを(加島屋に)

下賜するように言われたとのことである。

(広岡久右衛門)正饒がこれを頂戴した。

これによると、戊辰戦争が終わりに近づいた一八六八(明治元)年一一月に、長州藩の財務担当者である山県弥八・白根多助が今後の融資についての話をするために来阪した際、「長州藩主・毛利敬親公よりこれを加島屋に下されるよう申し伝えられた」として、加島屋の八代当主である広岡久右衛門正饒まさあつが頂いたものと記されています。

加島屋は五代当主の頃から長州藩のいわゆる「メーンバンク」として密接な取引がありました。幕末、長州藩は禁門の変や第一次長州征伐等で、政治的にも経済的にも苦境の只中にありました。にも関わらず、加島屋当主である広岡久右衛門正饒まさあつは、幕府や新撰組から嫌疑を受けるリスクを負いながら、単身で長州を訪れるなどして秘密裏に長州藩への支援を継続していました。

戊辰戦争も終結に向かい、新しい時代を迎えるにあたって、これまでの協力への感謝の気持ちが、この青磁大鉢という貴重なものを贈る形で届けられたのでしょう。

この時に長州藩から加島屋に下賜されたものは、実はこの青磁大鉢だけではありませんでした。現在、奈良県の寧楽美術館が所蔵している「黄金天目茶碗」。これも加島屋旧蔵品として知られた名品です。この茶碗の箱書きにも、青磁大鉢とほぼ同じ内容の由来書が記されています。

黄金天目茶碗(上)と共箱の由来書(下)
提供 公益財団法人名勝依水園・寧楽美術館

さらに、加島屋が長州藩に提出した、贈答品や拝領物をまとめた記録簿である「長州献上拝領帳」でも、一八六八(明治元)年一一月一五日に「青磁(地)大鉢」と「黄金茶碗」を拝領した記録が確認できました。

「長州献上拝領帳」(山口県文書館、11政理174

こうして、この「青磁大鉢」が、「一八六八(明治元)年一一月一五日に、長州藩主・毛利敬親から加島屋に下賜された青磁大鉢」であることが明らかになったのです。

青磁大鉢の公開

このたび、五月十二日から大同生命大阪本社二階のメモリアルホールで、この「青磁大鉢」を、期間限定で公開することになりました。

再び大阪の地に戻ってきた加島屋ゆかりの名品をご覧いただき、大阪と激動の幕末に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。皆さまのご来場をお待ちしています。

参考文献

  • 野高宏之「加島屋久右衛門と黄金茶碗」(『大阪の歴史』六八号 大阪市史編纂所 二〇〇六年)
  • 倉林重幸「近世後期大坂豪商・廣岡久右衛門家と茶の湯」(大日本茶道学会 二〇一八年)
  • 鈴木邦夫「広岡家美術品コレクションの崩壊と事業活動」(吉良芳恵編著『成瀬仁蔵と日本女子大学校の時代』第二章 二〇二一年)
  • 「商都大坂の豪商加島屋 あきない 町家 くらし」(大阪市立住まいのミュージアム 企画展図録 二〇二二年)
  • 高槻泰郎『豪商の金融史 廣岡家文書から解き明かす金融イノベーション』(慶応義塾大学出版会 二〇二二年)