再現! 広岡久右衛門家の「法被はっぴ

法被はっぴとは、江戸時代から武家や商家の奉公人が着用していた上着で、関東ではしるし半纏ばんてんとも呼ばれます。皆さんも地元のお祭りなどでご覧になったことがあると思います。

このたび、当社の源流の一つである加島屋・広岡久右衛門家にゆかりのある法被が見つかりました。今回、その法被を三越伊勢丹さまのご協力を得て再現しましたので、ご紹介します。

加島屋の法被か?

まずは、発見された法被をご覧ください。

サイズは、ゆき六二㎝、袖丈三三㎝、着丈九一㎝と少し大き目であり、「女性用」(着用時に膝上にかかるタイプ)と思われます。

背中に書かれている文字は、加島屋の「加」の篆書てんしょ体です。これが加島屋の屋印やじるし(商家の屋号紋)かどうかは定かではありませんが、この字体は明治二一年に創立した加島銀行の社章にも使用されており、江戸時代から続く豪商・加島屋の系譜を受け継いでいることを象徴するマークであったと考えられます。

「家庭週報」四九九号(一九一九(大正八)年一月一〇日発行)に掲載された、加島銀行社章入りの広告

また、襟に記された「本 廣岡」という文字ですが、加島屋では久右衛門家を「本宅」、隣接する分家の加島屋五兵衛家(浅子の夫・広岡信五郎が継いだ分家)を「新宅」と呼んでいたことに由来するものであり、「加島屋(加島銀行)広岡久右衛門家の関係者」が着用した法被と考えられます。

この法被の正確な制作時期は定かではありませんが、法被の包装紙に記されている三越(現・三越伊勢丹)のロゴマークは、一九〇四(明治三七)年から一九二八(昭和三)年の店章と一致します。ここから、この法被は明治後期から昭和初期までの間に、広岡久右衛門家が三越に注文して作ったものと考えられます。

法被の包装紙。三越の店章とあわせ、「御あつらえ染物」(=オーダーメイド)の文字が記されています。
三越本社『株式会社三越100年の記録』(二〇〇五(平成十七)年)「三越ロゴの変遷」より抜粋

再現! 加島屋法被

今回、三越伊勢丹さまの協力のもと、現在の藍染の技術でこの法被を再現しました。

三越伊勢丹さまにご紹介いただいたのは、埼玉県八潮市に作業場を構える相澤染工場。その社長である相澤享宏たかひろさんにお話を伺いました。

法被ができるまで

──このたびは法被の再現にご協力いただきありがとうございます。まずは法被ができるまでの工程を簡単に教えてください。

相澤:法被は、次のような工程を経て作られます。

①型付け

まずは染める前の準備として、綿布の反物に型紙を使って防染糊ぼうせんのりを塗ります。この糊をつけた部分は、染まらずに白抜きのまま残るので、出来上がった際の文字や模様になります。

今回専用に作成・使用した型紙。
型紙の上から防染糊を塗り、おがくずをかけて天日干しする。

綿は染まりにくい(藍が繊維につきにくい)素材なので、呉汁ごじる(大豆の搾り汁)を反物全体に刷毛で塗り込むことで、あらかじめ藍の染め付けをよくします。

「呉入れ」は、上呉うあご下呉したごと二回の工程にわかれ、それぞれ塗った呉汁を天日で乾燥させる。

そめ

呉入れを終えたら、「染め」に入る前に「染出し」という作業をします。これは藍液に反物を一度通す作業で、反物をムラなくきれいに染めるために重要なものです。染出しを終えた反物は、呉をからす(固める)ため、干して乾燥させた後にたたんで風呂敷にくるみ、室内で数日間寝かせます。

一度藍液に通した反物を干している様子。

④染め

いよいよ「染め」の段階です。「藍がめ」という藍の液を満たした容器に反物を入れて染めます。それを空気にさらして、鮮やかな藍色に発色させます。この藍がめに入れて空気にさらす、という作業を三~四回繰り返して、我々がよく目にする法被の紺色にしていくのです。

藍がめの中に浸した反物。長い反物を屏風だたみの状態にし、伸子しんしという竹で作った道具に掛けて藍がめに入れる。
藍がめから出した反物は、たたんだ反物が濡れてくっついた状態に。それを伸子を左手から右手に持ち替えていき空気に触れさせることで、長い反物をムラなく発色させる。

水元みずもと

染め終えた反物を、一晩水槽に浸け置いてからさらに水洗いします。最初に塗った防染糊はここで落ちて、白い文字や模様が浮かび上がります。

水洗いした反物を晴れた日に天日干しします。
青空のもと長い反物がたなびく姿は壮観。

このようにして染め上げた反物を各パーツに裁断し、縫製すれば、法被の完成です。

──各工程で何度も天日干しするなど、とても手間をかけた作業であることに驚きました。今回、法被を再現する過程で、気になったこと、感じたことなどはありますか?

相澤:まずは法被の保存状態が非常に良いことに驚きました。おそらく仕事用の法被なのでしょうか、全体的にシンプルですが、味わいのあるデザインです。中にみえる水色の部分は背中の「当て布」で、襟の滑りが良くなるように工夫されたものです。新品ではなく、何度か使用された形跡があるものの、普段着として使ったような汚れや色落ちはなく、ごく短期間か、もしくは大切な行事の際に着用していたのではないかと思います。

また、背中の屋号や襟の文字の部分についてですが、今回は型紙を使って糊をおき、糊を付けた場所以外を染め上げましたが、元の法被は直接生地に下絵を書いてその上から糊を入れた筒で糊を付けるという「筒書き」で染めていると思います。仕上がりを見て、とても丁寧な仕事がされている法被だと感じました。

今回、大変貴重なものをお預かりしたので、正しく再現しなければいけないというプレッシャーもありましたが、元の保存状態が良かったこともあり、当時の形をしっかりと再現できたと思います。

──ありがとうございました。

再現した法被をご覧になりたい方へ

この再現した法被は、当社大阪本社(大阪市西区)メモリアルホールの特別展示「大同生命の源流“加島屋と広岡浅子”」でご覧いただけます。